株主名簿の記載事項

 株主は、会社の営業時間内であれば、いつでも株主名簿の閲覧・謄写の請求ができます(会社法125条1項)。最近では、ティーオーシーがダヴィンチの株式をTOBするにあたり、ダヴィンチの株主に協力を呼びかけるために閲覧請求をしたところ、ダヴィンチは競業関係にある、と拒否しティーオーシー側が東京地方裁判所に仮処分を申し立てた事件が記憶に新しいところです。
 さて、今日はあまり実際には問題になりそうにない、細かいことを書こうかと思います。
 会社法121条1項3号によると、株主名簿には、
3 第1号の株主が株式を取得した日
 を記載しないとならないとあります。
 「株式を取得した日」というのは具体的には何を指すのでしょうか。法が株式の取得日を記載条項とした趣旨は、議決権行使や利益配当の受領権者をこれによって確定するため、と説明されています。江頭先生の教科書によると、株券番号の記載がない会社では、無効な新株発行があった場合、誰がその新株を保有しているのか判断する資料になるということも指摘されています。
 さて、1度に現在保有する全部の株式を取得したならばその日を記入すればよいでしょう。問題は、複数回にわたって、株式を取得したり、途中で一部譲渡しているような場合です(通常はこのような場合が多いことでしょう)。
 一般的には、ある株主が、その会社の株式を取得(譲渡)したすべての日を記入していると思われます。では、次のような場合はどうでしょうか。
 ? 一旦取得した株式を全部手放し、一時期持ち株が0になった場合。
 ? 歴史の古い会社で、100年以上まえから株式が発行され、そのころから譲渡・取得を繰り返した場合。
 まず、?の場合は、持ち株が0になった以前の動きは株主名簿に記載しなくてもよいと考えられます。議決権行使権者等の特定、無効株の保有者の特定になんら支障はないからです。
 次に、?の場合、やはりすべての取得日について記載する必要がありそうです。議決権行使や利益配当の受領権者を確定するという趣旨からは、100年前の株券の動きは記載しなくてもよさそうです。しかし、後から、株主総会の決議取り消し・無効などを主張する場合もあるでしょうし、無効な株券を誰が取得したかに関し、新株発行の無効をずっと後になって主張する場合もあるからです。
 と、以上、それだけの話で、特にすべての株券の取得日が判明しているのならば通常株主名簿に記載することになんら支障がなく、あまり問題となりえないことですし、ましてや記載の不備をめぐって紛争になることは考えにくい事項ですが、気になったので検討してみました。

 あと、すべての取得日について記載する場合に、誰から取得したか、ということを記載するのが一般的だと思います。この取得先が個人であり、すでに当該会社の株主になっていない場合、その個人名の記載された株主名簿閲覧・謄写請求に応じることは個人情報保護法23条に違反しないかという問題があります。法令による開示として適法とされる余地もないではありません。しかし、取得先の個人名は、株主名簿の記載事項ではないのですから、法令によって開示が義務付けられる事項でなく、やはり厳密に言えば個人情報保護法違反になるかと思います(もちろん、個人情報取扱業者に該当する場合ですが)。まあ、このことも実際あまり問題になりにくいとは思います。