CIETAC本会の上海・華南分会の対立と、仲裁合意への影響

 平成24年8月1日に、CIETAC北京本部がその「派出機構」である上海、華南分会が仲裁申請を受理し、管理することについての授権を中止する旨、そして、上海分会・華南分会を仲裁機構として約定している場合、CIETAC北京本部が上海・華南にそれぞれ置いている「秘書局」に申立てをすれば、それぞれの地においてCIETAC本部が仲裁手続を進行する旨などを公告した。
http://cn.cietac.org/notes/notes094.shtml
 これに対し、CIETAC上海・華南分会は同年8月28日、法政日報上で公告を行い、“上海分会・華南分会はそれぞれ独立した仲裁権能を有するのだ、意思自治の原則により、当事者が上海または華南支部で仲裁を行う旨の約定をした場合、他のどのような機関も仲裁を受理する権限はない”としている。
http://www.sccietac.org/main/zxfw/xwtt/notice/T115235.shtml
 この争いの背景には、北京本部が作成した新たな仲裁規則に対し上海・華南支部が従えないと反発したこと、沿革的にはCIETAC北京本部よりも華南、上海分会の方が先に設立されていることなどがある。

 さて、中国法を扱う実務家にとって最大の関心事は、「では平成24年8月以降の契約では、CIETAC北京本部を仲裁機関として合意するのか、上海分会・華南分会を仲裁機関として合意するのか、どちらがよいのか」という点である。
 個人的には大変残念ながら、やはり北京本部を仲裁機関と合意するのが無難であるとの結論を述べざるを得ない。

 なぜなら、ある契約において上海・華南分会を仲裁機関と合意した場合、中国側(厳密には中国側に限られず、契約の相手方ということになるが)が“北京本部の公告に従い、上海・華南分会は仲裁権限がないから、仲裁合意は無効だ”との前提のもとに、裁判所に提訴し、その主張が認められる危険性が存在することは否定できないからだ。ここでの詳細な説明は省くが、特に地方の裁判所では地元企業を優遇する「地方保護主義」の弊害が指摘されており、中国側の地元企業が提訴した場合にその主張が通ってしまう危険性は高い。
なお、逆に日本側が仲裁合意の有効性を前提に上海・華南分会に仲裁申請をした場合において、相手方である中国企業(厳密にはそう限られないことは前述のとおり)が仲裁合意の有効性を争う可能性はゼロに等しいと言っていいだろう。なぜなら、上記公告のとおり、上海・華南分会は必ずや仲裁合意が有効であることを前提に手続きを勧め、終局判断を下すはずであり、相手方は執行段階において裁判所で仲裁合意の有効性を争うことになるが、いかに地方保護主義があるとはいえ、執行段階でしか争えないことについてはリスクが大きすぎるからである。

 9月に上海に行った際など、出会った中国人弁護士には必ずこの問題に関する見解を聞いた。結果は、「本会を仲裁機関とし、仲裁地だけ上海にする」派と、「いや、上海分会でOKだ」とする派とほぼ真っ二つであった(ただし、聞くことができた人数はそれほど多くない)。なお、実は9月に上海分会を訪問した際に、思い切ってこの問題について直接分会の仲裁員に尋ねてみたところ、結果は案の定というか「子どもがどうして父親の授権を中止できようか」ということで、上海・華南分会の公告を紹介しつつ「当然に有効だ」というものだった。
 「個人的には残念ながら」というのは、上海分会の方々に親切にしていただいたこと、私自身CIETACでの仲裁は未経験ながら上海分会の仲裁委員は能力優れ、十分に信頼できる方が多いことなどによる。しかし、上述のように危険性は否定できないのである。

 もちろん、紛争になった後、改めて双方が上海・華南分会を仲裁機関とする合意ができれば問題なく受理されるであろう。ただ、現段階において、契約時に上海・華南分会を仲裁機関として合意することはやはりおすすめできないといわざるを得ない。司法解釈などでこの問題についてはっきりさせてくれれば助かるのだが、、、多分期待はできないだろう。

 なお、上海・華南分会に独立?の動きがあるともいうので、今後の同行は引き続き注目したい。

中国法における賃貸借契約

 中国法における賃貸借契約は、日本法におけるそれと若干異なる特色があるので、当然ながら契約を締結する際にも注意が必要である。

1 6ヶ月を超える賃貸借契約は書面によるものであることが強制される(契約法215条)。書面によらない場合、期限の定めない賃貸借とみなされる。

2 信頼関係破壊法理は存在しない(はずだ)が、そのかわり、賃料滞納があった場合も合理的期間内に支払うことを催告し、その期間が経過して解除が可能になる(227条)。一般的な契約書では、3日〜7日の期間が定められていることが多い。

3 売買は賃貸借を破るという原則はない。賃貸借中の所有権の変動は、賃貸借に影響を与えない(229条)。

4 賃借人には、賃貸物件の優先購買権が法律上認められている(230条)

5 期限の定めのない賃貸借は、双方が(賃貸人も!)合理的期間をさだめた催告により解約(告知)できる(232条)。反対解釈すれば、期限の定めある賃貸借はその期間内には解約できない。

6 生前の賃借人の同居者は、その賃貸借契約によって当該家屋を賃貸できる(234条)。

 などなど。
 
 興味深く、かつ注意すべきは日本のような借地借家法の保護がないことであろう。上述のように期限の定めのある賃貸借は中途解約できないのが原則であるが、中国の賃貸借契約書では、中途解約できる旨の条項が定められている場合もあるが、主体は当事者双方であることが多い。日本法のような賃借人に対する厚い保護は存在しないことに注意すべきである。
 期限の定めのある賃貸借については、日本法の下でも賃借人からの中途解約は一応不可である。もっとも、新賃借人を探すなどしてくれば、期限までの賃料まで支払うことを余儀なくされるわけではない。例えば東地平成8年8月22日はのこり3年2ヶ月の賃貸期間がある借主側の中途解約について、1年分の賃料・共益費に限り賃借人側に認めた。その余の支払いを認めることは公序良俗違反だとする。中国法の下では、裁判所や仲裁期間は違約金の減額が可能である(契約法114条)が、その運用基準は必ずしも統一的とはいえないことにも注意が必要である。

中国における婚外関係、婚外子の出産と罰金

 中国における男性駐在員が女性トラブルにハマって身を持ち崩す例は少なくない。日本人男性が中国人女性と性的関係を持ち、妊娠させた場合を想定して法的な観点からこの問題をまとめると次のとおりである。なお、もちろん、売春が違法であることはいうまでもない。

1 不倫・婚外関係に対して刑事処罰規定は見当たらない
 改めて婚姻法や刑法の規定を見なおしてみたが、不倫や婚外関係それ自体を処罰する法規は見当たらない。かつては通奸罪という罪があったが、現在婚姻法ではこれを規制していない。道徳上の問題にすぎないとされている。ただし、「婚姻登記条例」により、他人の配偶者と夫婦の名義をもって同居した場合、「重婚罪」が適用される。いかなる場合に「夫婦の名義をもって同居」といえるのかは調査未了であるが、おそらく単なる同棲状態ではたりず、客観的に外部に夫婦であることを表示することが必要なものであろうと想像される。「重婚問題の管轄に関する通知」という司法解釈には「非法[女并]居」(不法な男女の同居とでも訳すのであろうか)という概念があり、公安機関に判明して注意を数度受けても後悔し同居を中止しない場合には所属単位から行政・治安処分に処されることがあるようである。情状が悪い場合は「労働教育」を受けさせられることもあるそうである。
 なお、中国共産党処分規律条例という党規則の中には、警告や場合によっては除籍等の処分がなされる旨の規定がある(150条)。

2 婚外子の出産について
 通常、婚姻している夫婦が出産をするには「準生証」とよばれる、いわば出産許可証のような書類を取得することになる。準生証を取得しないまま子どもを産めば、罰金の対象になる。ただし、結婚証明書を出産前に取得していて、かつ出産後1月以内に準生証を取得していれば別である。
 準生証を取得するには結婚証明書が必要であり、婚外子を出産する場合は当然これを取得できない。だが、あたりまえの事のようであるが、病院が出産を取り扱うのに準生証は必要でなく、出産証明書も病院から交付してもらえる(母嬰保健法24条)。

3 戸籍への登録と罰金
 戸籍への登録は婚外子であっても可能なようである。この際の手続きについて、ハッキリしたことは調べてもよくわからない。「戸籍登記条例」によれば、親戚や事実上の扶養者、捨て子であっても戸籍に登録できるとあるから、登録可能なのであろう。ただ、中国の法律相談サイトなどをみても、記述がまちまちで「地区の戸籍部門に聞け」という類の回答が多い。法律上どうなっているのかはハッキリしない。
 あるサイトの回答によれば、登録の際に一定の罰金が徴収されるようである。それは「社会扶養費」かもしれず、あるいは別の罰金かもしれない。いずれにせよ、問題として大きいのは、「社会扶養費」の徴収である。「社会扶養費」は、一人っ子政策のもと二人目以降の子どもを産んだ場合にも徴収されるものであるが、婚外子の出産にも適用される。そして、地方ごとにその額は異なるが、10万元や20万元(130万円や260万円)単位の、中国の物価からするととんでもない数字になるらしい。

4 婚外子の権利義務
 婚外子と言えども、婚内子(嫡出子)と同等の権利を持つ(婚姻法25条)。父母は共に扶養義務を負うから、男性駐在員の問題として考えれば、婚外子であっても養育費の支払いをしなければならない。

 もちろん、婚外関係をもって妊娠させるようなこと自体あってはならない。ただ、その後女性側やその関係者に恐喝まがいの行為に遭い、トラブルを一層大きくする例もあるので、正しい知識をもとに冷静に対処したいものである。

平成24年新司法試験民事系(会社法)について−補足

 設問(3)について、どこか見落としがあるのではないかと気にしていたが、多分次の点がこの問題のメインではないかと思う。講師失格ですね……。多分、この論点がこの問題のメインだと思うが、多分受験生でもほとんど書けた人がいないのではなかろうか。

 先に行った設問の要約からしてポイントが抜けているが、監査役選任議案の株主提案に対して、監査役会の同意(343条1項)がない。同条は「取締役が」としているから、会社提案を前提としているように読めるが、監査役の独立性という点を考えると、株主兼取締役が監査役会の同意を得られなかった選任議案について、株主提案の形で提案する場合にもその趣旨は及ぶのか否かは問題になりそうである。及ばないとすれば、同条項がザル規定になりかねないからである。ただし、本問では会社提案として選任議案を提出した代取Hと、株主提案をした乙社(甲社の取締役Pの一人会社)は異なるから、若干変形ではあるが。
 こういう問題があることはなんとか分かったが、裁判例・実務でどうなっているかよく知らない(勉強しておきます)。結局343条1項の脱法行為防止(ひいては監査役の地位の独立性)という点を強調するか、株主としての地位や株主の提案権行使の重要性を強調するのかで、どちらの結論をとることも可能だと思う。現段階では、後者の見解、株主提案である以上監査役の同意は不要であるという見解に賛成したい。脱法行為を許すべきでないという考えは理解できるが、結局どの範囲まで適用されるのか、会社提案にかかる取締役=株主提案者であるような場合は分かりやすいが、本問のように異なる場合にも適用されるか、異なる場合に適用される条件や範囲はどうなるのかあいまいである。結局、一応一般論としては株主提案ならば同意は不要とした上で、個別に343条1項の規制を潜脱するような事情の有無を検討し、脱法的といえるような特段の事情がある場合には違法とするのが一番無難ではなかろうか。
 なお、本問の設定と似ているようで若干異なる事例で、ビューティ花壇という会社の事例がある。おそらく本問はこれを参考にしたものであろう。これは、現監査役を入れ替える会社提案に監査役会の同意がえられず、会社提案(本問で言えば議案②)に監査役会の同意が得られず、会社は議案を上程することができない一方、現監査役を再任する提案(本問でいえば議案①)が株主提案として提案され、後者が可決されたというものである。この事例では現監査役会が同意するところの、現監査役再任の株主提案が可決されたから、監査役の独立性との関係では問題が生じなかったのである。
 株主提案権の内容
 http://www.beauty-kadan.com/ir_news/img/kabunushi_teian_20090626.pdf
 会社の意見
 http://www.beauty-kadan.com/ir_news/img/kabunushi_teian_reply_2.pdf
 結果
 http://www.beauty-kadan.com/ir_news/resources/2009/09img/090925ketugi.pdf

平成24年新司法試験民事系(会社法)について

 今年の会社法の問題を早速問いてみたが、例年のように事案設定ドキドキさせてくれるわけでも、問われている内容が難しいけど面白かったりでワクワクさせてくれるわけでもない、至って平凡な問題ですこしがっかりしている。監査役の権限とか、株主が「第三者」にあたるかというあたりは自分の担当した問題で学生にも出しているので、多少は役に立ったかもしれないが、事案分析の方法なんかを細かく教えた部分はほとんど役に立っていないので、その点でもがっかりだ。。。。

1 問題の概要は次のとおり
 甲社の取締役はもともとA、B、C、Dで、Aが代取(後にHが取締役として追加選任され、代取をAと交代)、監査役はE、F、G。甲社の発行済株式総数は100満株で、Aは1万株を保有している株主でもある。
 (1) 平成22年株主総会では、会社は改選期にあるA、B、C、Dの取締役選任議案を提出したが、甲社の発行済株式のうち33万株を取得した乙社(取締役P)は、平成22年の株主総会の場でP、Q、Rを取締役候補者とする旨の修正動議を提出した。議長Hはアルファベット順に得票数を集計し、Aは出席株主の過半数の賛成を得られなかったが、B、C、D、Pは得られたので、この段階で4名の選任された旨宣言した。しかし、実際の得票数による順位はD、C、P、Q、R、Bであった。設問は、この選任の当否を問うものである。
 (2) Pは、甲社が乙社に対して15億円を無担保で貸し付けることを提案し、Pを除くB、C、D、Hの賛成で可決された。監査役Fは説明不十分として異議を述べていた。後に乙社は倒産し、15億円は回収不能となってしまった。設問は、A及びFが事前にどのような権限を行使できるか、H,D,Pにそれぞれどのような責任追及ができるかを問うものである。
 (3) 平成23年総会に先立ち、監査役会はE、F、Gを監査役候補者とする議案を提案し、会社提案となった(議案①)。PはE、Q、Rを候補者としたい意向だったため、株主乙社を代表し、株主提案としてその内容の議案を提出した(議案②)。総会の場では、議長Hが、議案①、②の審議に先立ちFが意見を述べようとするのを静止し、そのまま決議が行われ、議案②だけが過半数の賛成を得られた。設問は、決議取消の訴えを提起しようとしたA,Fの予想される主張と、その当否を問うものである。

2 取締役候補者追加の修正動議の扱い
 上記(1)では、取締役候補者追加の修正動議が提出された場合の採決方法が問題となる。ここで、議題はあくまでも「取締役4名選任の件」であるから定款違反(1には書かなかったが、定款上取締役の員数は6人以下とされている)の問題は生じない(と思うが、何か見落としがあるかもしれず、今ひとつ自信がない)。なお、問題文上、取締役増員の動議とは読みにくい(「候補者として追加する旨の議案」とあるし、修正動議の提案は適法であることを前提とせよとされている)。
 この場合の採決方法につき、①候補者の数だけ投票権があるのか、②員数(本件では4人)だけ投票権があるのかについて議論があるが、どちらの方法をとっても構わないというのが実務上の扱いだと思う。本件では①の方法を採ったようであるが、その点について特に違法は存在しないことになる。
 ここから先は少し難しい。まず、議長Hの採決方法は、会社提案先議、修正動議は後回しということになる(はず)。普通は会場に先議について諮ってから採決に移るはずだが、株主から異議がでない限り議長裁量で先議をしてもよいはずである。つまり会社案先議という点では違法は存在しないはずである。
 その後の問題として、次の2つの考え方ができるのではないか。
 ア Pが過半数の賛成を得た段階で議題にかかる4名が決定し、一部修正議案として可決されたことになるから、Q、Rについては採決しないことは当然であり、適法
 イ 得票数の多い順に選任されるべきであって、Qを選任しなかったのは違法
 理論的に素直なのはアで、実質的に妥当なのはイだと思う。実務的にはアの解釈を採りたくなる(確か、本問において株主提案が修正動議でなくて別議題であれば、会社提案先議により可決されることで、株主提案は採決の必要がなくなるというのが実務ではないかと思う)が、どうだろうか。イはどうやってそのような採決方法をとるべきとの解釈を導くのかが難しい。条理などを持ち出すしかないのだろうか。よくわからない。
 以上、真面目に考えると非常に難しい問題だが、受験生レベルでこういう問題があると気づくとは到底思えない(受験生時代の私なら到底ムリ)。解釈上の理屈付けを伴わず、上記イのようにすべきとして取消事由ありとだけ論じる答案が続出して、「採点が難しいものとなった」ということになるかもしれない。
 おそらく議題と議案の違いをしっかり理解しているかというような基本的なことで差がつくのだろう。定款の上限である5名まで選任できると勘違いしてしまったりすると、相対的に脱落することになるだろう。

3 違法行為の差し止めと損害賠償請求
 上記(2)のうち、違法行為の差し止めは既に過去問でも出ているし、基本的には条文にあてはめるだけの作業なので、そう難しくはない。私の趣味では著しい損害はあるが回復することが困難な損害とまではいえないと具体的な事実をもとに論じわけるだろう。あてはめとか、事案の分析で多少なりとも差がつくのはこの部分だろう。あと、差し止めの前提となる株主・監査役の調査権限等についても一応条文を引いて記載しておいたほうが無難だろう(少なくとも減点はないはず)。
 利益相反に関し、報告すべき「重要な事項」の範囲がどこまでなのかは勉強不足でよく知らない。Fが説明不十分として異議を述べている設問の設定はこの点について論じて欲しいという意図かもしれないから、これも軽く触れておくのが無難だろう。素朴には、取引の動機(甲社へのメリット)、返済の見込みなども「重要な事項」に含まれると思うので、この点について違反があり、承認決議には瑕疵があると論じることも可能ではないか。
 学生には口酸っぱく言っているが、15億(なお甲社の資本金は30億)という設定から、重要な財産の処分にあたるかどうかの検討も一応しておいたほうがいい。どのみち決議はあるから、それほど重要度は高くないが。
 Aが1万株(1%以上)の株主であるとの設定は、差し止めに先立つ(代替する)少数株主権を挙げて欲しいという意図と、株主が429条の「第三者」に含まれるかを論じて欲しい意図を含むものであろう。本問ではややこしいことはないが、雪印事件の東京高裁判決に従えば、Aの役員に対する直接の損害賠償請求は否定されることになろう。

4 監査役選任議案の瑕疵
 上記(3)の配点が(1)より多いことが気になる。(1)の方が論点が多いようにも思えるからである(逆にいえば(1)ではあまり細かいことを論じる必要はないのかもしれない)。瑕疵としては監査役の意見陳述の機会を奪ったことがほぼすべてだと思われ、あとは元監査役Fの原告適格、Aが意見陳述の機会を奪ったことの瑕疵を主張できるか、関連して裁量棄却くらいだろうか。株主提案権の行使期間も守られている設定だし、E、Qについて横滑り監査役のような論点を論じさせたい意図とはさすがに考えにくいし、監査役会の同意について特別利害関係人云々を論じさせたい意図とも思えない。

川島茉樹代氏の判決に思う

 台湾の芸能界には日本人が多数進出している。私にもっとも馴染みがあるのは、周杰倫の代表曲「七里香」のPVにも出演した田中千絵さんである。おそらく金城武を除いてその次に台湾で有名な日本人芸能人は川島茉樹代さんではなかろうか。
 彼女はタクシー運転手に対する暴行事件で起訴され、最近一審判決が下された。とあるきっかけでその判決を検討したので、台湾の刑事裁判のケーススタディにもなると思い、以下その内容を検討してみたい。
 判決文はhttp://jirs.judicial.gov.tw/GNNWS/download.asp?sdMsgId=25893%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%81%A8

1 裁判所の認定事実の概要は次のとおりである
 川島茉樹代(以下「川島」という)は、友人の友寄隆輝(以下「友寄」という)らと飲食の後、4人でタクシーをつかまえてホテルまで帰ろうとした。川島は道中、「もっとスピードを出すように」と要求したが、運転手は「安全のため」とこれを拒否したので、川島は不満を抱いた。そこで、川島は車を止めさせ、別のタクシーでホテルに帰ろうとした。同乗していた友人がメーターどおりに料金を支払おうとするのを見て、手を差し出してその友人が支払をするのを止めようとした。運転手はこれを見て川島が攻撃しようとしていると誤解し、遮ろうと手を出した拍子に川島の右肩に触れてしまった。川島はこのことに激昂し、タクシーを降りて右後部の車体を蹴るなどして損壊した。
 友寄は運転手が下車したのを見て、また気分がよくないことから、川島と意をつうじて運転手の衣服を掴んで引っ張り倒して飛び蹴り、頭部や胸部を踏みつけるなどした。川島もこれに乗じて運転手を踏みつけるなどした。
 これにより運転手はくも膜下出欠、脳震盪、胸部骨膜断裂等の傷害を負った。

2 主要な争点は、重傷害罪の故意があるか、それとも普通傷害罪の故意にとどまるのかである。裁判所の判断の概要は次のとおりで、普通傷害罪にとどまるとした。
 (1) 「普通傷害と重傷害のメルクマールは重傷害の故意があったか否かにもとづき判断する。傷害の部位や加害者の凶器をもって重傷害の故意有りと判断できそうな場合であっても、これを絶対の標準としてはならない」(台湾の最高裁判例を参照)、「同期、凶器の種別、凶器の用法・攻撃の過程、傷の多さとその程度、事件発覚時の事情、犯行後の態度等を総合的に分析して判断すべきである。
 (2) 本件では、被害者が川島らの踏みつけ等の攻撃をかわす態勢をとった際に頭部・胸部に傷害を負った可能性を排除しきれない。本件は偶発的な事件で、川島らに重傷を負わせるまでの動機がない。武器を用いたものでもないし、攻撃の時間は1分にも満たない。以上から、川島らが被害者の特定の部位を攻撃し重傷害を加える故意を有していたとは認めるに足らない。
 (3) 普通傷害罪として、懲役1年4月、保護観察付き執行猶予4年に処する。

3 コメント
 (1) まず、報道では「台湾では後部座席でもシートベルトを着用することが義務化され、着用がないと運転手が処罰されることから、運転手が川島に着用を要求したところ、これに反発して口論となり、暴行に発展した」という趣旨のものが多いが、判決ではこの点は認定されていない。スピードを上げることを断わったことが一連の出来事の発端であったようである。もっとも、スピードを上げることを断っただけでタクシーを途中下車して乗り換えようと思うのか疑問であり、他にも問題はあったかもしれないが。
 (2) 次に、川島は友人がメーター通りの料金を支払うのを止めようとして手を差し出し、運転手はこれを攻撃と誤解して遮ろうとしたところ、川島の右肩に手を触れてしまったということである。川島は怒ったが、それでも車を降りてタクシーの車体に損壊を加えたにとどまり、運転手への攻撃はしていない。友寄がこれを見て先に運転手に攻撃を加えたようであり、川島が攻撃を加えたのは友寄が運転手を倒して踏みつけたりしていた後のことのようである。
   以上の経過を見ると、確かに川島が共同正犯であることは否定できないけれども、傷害に関する積極的な犯意はそれほど強くないように思える。ただ、本来友寄のやりすぎた行為を制止し、あるいはせめて傍観するにとどめるべきであろうが(この場合は幇助犯にとどまるであろう)、積極的に手出ししてしまったことは非難に値しよう。
 (3) とはいえ、(2)の点を踏まえると、個人的な感想はやや量刑は重すぎではないかという気もする。幸い被害者には後遺症まで残っていないようであり、被害弁償もすんでいる。罰金刑にとどめてもよい事案だったのではないか。
   なにより、就業服務法73条6号は外国人の就業許可取消事由として「台湾の法令に違反し、その情状が重大であるもの」を挙げている。判決と直接関係しているわけではないが、川島の就労許可はこれにより取消されてしまったようである。罰金刑ならば取消まで行かなかった可能性は十分ある。
   本件を反省して台湾で芸能活動を続けることが本人の更生にとっても一番有益のように思う。私は彼女の芸能活動を知らないけども、復帰を願うファンも日台問わず多いのではないか。
 (4) なお、以上は一審の事実認定を前提とした場合の意見である。検察官は控訴したようであり、確かに少なくとも友寄には重傷害の故意が認められる可能性は十分あるように思う。ただ、その場合でも、川島との間で重傷害の共謀まで成立しているかは(ともすれば当然のように肯定されがちになるが)慎重に検討されるべきだと思う。判決文を眺めて、友寄がいわば連れの女性に手を出されたことに腹を立てて、(いい格好をしようとでも思ったのか)やりすぎてしまった、という流れにも見えなくはない。なお、友寄は中国語が分からないらしく、川島や友人と運転手との間で具体的に何がトラブルになっているかまでは理解できていなかったはずである。
 (5) ついでに、(4)とも関連するが、現場を撮影したビデオが証拠撮影されていたようなので、できれば判決でも友寄、川島が1分足らずのあいだに、どの部位をどのようにどの程度攻撃したのか、もっと詳細に認定してくれればより正確な判断ができそうである。多分、日本の判決だったらこういう場合にもっと詳細に認定しているだろう。

※ 重傷害とは、一目・一耳・一肢または嗅覚、聴覚、味覚、若しくは生殖機能の用廃をもたらすもの、または身体・健康に重大不治若しくは難治の傷害を与えるもの(台湾刑法10条1項1ないし6号)。重傷害罪は5年以上12年以下の有期懲役(同278条1項)、普通傷害は3年以下の懲役か1000台湾ドル以下の罰金(同277条)。

シリーズ―中国法における裁判例(3)−地方、自国保護主義という問題

 江蘇省無錫市中級人民法院 事件番号不明 2010年6月10日判決
 合弁会社董事長を外国人(タイ人)が務めていたところ(判決からはよくわからないが、中泰の合弁会社なのであろうか)、このタイ人董事長が合計280万円を横領したとして代表訴訟を提起した事案である。
 判決は、代表訴訟に先立ち、中国方が、自社が派遣した監事に提訴請求をしなかった(董事会に提訴請求をしていた)という極めて形式的な理由で提訴を棄却した。
 なぜ中国方は監事に指示して董事長の責任を追求する訴えを提起させなかったのか(董事の責任を追求する訴えでは監事が会社を代表する)、そうでなくても条文どおり監事に提訴請求すればいいところ、なぜ董事会に提訴請求したのかはよくわからない。それだけ、代表訴訟や董事の責任追及訴訟の制度が定着していないことを意味するのかもしれない。
 先に「時々概念法学的なところ―形式論でバッサリ切り捨ててしまう―があり、他方で理屈を強引に引っ込めて実質論で請求を認めてしまうようなことも結構ある」と指摘したが、本判決は前者に属するものである。外国人が被告となっている事例でも、前者のような考え方で棄却したわけであるから、自国保護主義が働いていない一例であるとはいうことができそうである。